ある豆柴の暮らし

朝。今日もお気に入りの穴倉から顔を出し、丹念に伸びをする。前脚を押し出して上半身を、後ろ脚をぴんと伸ばして下半身を。

まだ飼い主たちは起きていないらしい。部屋のドアをそっとカリカリと撫で、起こしてあげる。

「まだ〜」とか「もうちょっと〜」とか言ってくるけれど、朝は起きたほうがいい。そして私にご飯をください。引き続きカリカリとし続ける。

起きてきた飼い主がドアを開けたら、広い部屋に飛び出す。やーやー1日の始まりだ。

 

小さい飼い主は朝が弱いのか、もそもそと起きてきて私の部屋のドアを開けてから、広い部屋にマットを敷いてまた横になる。かけ布団までかける。そしたら私は横になった小さい飼い主の脚の間で丸くなる。温いし、日中側にいない小さい飼い主との貴重な朝の癒しの時間である。

 

しばらくすると小さい飼い主はもそもそと起き上がり、何か自分の食べるものを用意し始める。用意しながら私に向かって「おしっこしな〜」と声をかけ、たまにトイレに向かって追いやってくる。

そんなに急かさないでよ、と思いながら用を足し、飼い主から褒められるまでが一連の流れ。

飼い主が食べたら私の番。ご飯を器に入れて出してくれる。今日は何か載っているかな、と期待したけれど、いつものごはんだけだった。ごはんには時々鰹節だったり、煮干しを砕いたやつが載っていたりすることがあって、楽しみにしている。

 

ご飯を食べ終えると、小さい飼い主は別の部屋へ行ってしまう。私が入れないように柵が立てられている部屋。何をしているのかはよく知らないが、座って何やらしている。私は柵の手前に伏せて飼い主を眺めたり、ソファで丸くなったり、窓の外を眺めたり、二度寝したり、自由に過ごす。

 

大きな飼い主が起きてきたようだ。のそっと広い部屋に出てきて、何やら声をかけてくる。たぶん、朝の挨拶と、今日もかわいいね、とかそういうことを言っているんだと思う。

大きな飼い主はどこかに出掛けていったり、ソファに座って何かを見たりしていることが多い。私の定位置に座ることも多いので、そんな時は大きな飼い主の上に乗る。定位置だから譲らない。それに、飼い主の膝の上は温いので、丸くなるのにちょうどよい。ちょっと鼻が冷たいので手で温めながらしばし昼寝をする。大きい飼い主はそっとしておいてくれるのでありがたい。小さい飼い主は割と構ってくるので、ちょっと今はそっとしておいてくださいよ、と思うこともそこそこある。

 

「さんぽ」という音が耳に入った。飼い主たちが私を恐ろしい外界に連れ出すときの合言葉だ。いやだ。いきたくない。体が震え始める。飼い主たちとの追いかけっこの末、体に紐をつけられ、小さい飼い主に抱えられる。

仕方ない。こうなってはもう観念して付き合ってやるしかない。ドアを開けるとごーごーと音を立てて大きなものが行き交っている。うぅいやだ。地面に降ろされたら急いでその場を離れる。いつものコースだ。とにかく大きな音が嫌いなので、聞こえてきたら逃げる。危険を察知している私を褒めてほしいくらいだが、飼い主たちは何やら声をかけてきていつものコースを進ませようとする。日によっては歩いているうちにちょっと楽しくなってくることもあるけど、やっぱり家が一番だな…と思う。

てくてくと歩き、日光浴もして、用も足し、最後はラストスパート。飼い主と共に大いに走る。走る。最後はまた小さい飼い主に抱えられて家に帰る。

 

脚を拭かれ(時々爪も切られ、、あれはだいぶ慣れたがまだ恐ろしい)ると、ようやく紐から解放だ!ぶるぶると体を振って気を取り直す。夏は氷をもらったりするけど、冬は自分の部屋で水を飲んで、「さんぽ」のルーティーンは完了だ。

 

小さい飼い主はまた私の入れない部屋に戻っていってなにやらしているが、時々私の様子を見に来る。ちょっと嬉しい。遊んでくれないか?と態度で示してみるが、大抵はすぐに戻っていってしまう。つまらぬ。

一方で、大きな飼い主はよく遊んでくれる。楽しい時間だ。大きな飼い主も鳴き声が高かったり、いい具合に撫でてくれたりするので、たぶん楽しんでいるのだと思う。たまにおやつももらえるので、嬉しい。「うまのはい」というおやつが大好きだ。いつももっとほしい。でも大抵おかわりは聞いてもらえない。無念。

 

暗くなってくると、そろそろ飼い主たちとのごはんの時間だ。1日の中で一番賑やかな時間である。飼い主たちが食べ、私にご飯をくれ、食べ終わったら一緒にソファに座る。少し狭いが、飼い主の上か横に座って温まるのは心安らぐ時間だ。

しばらくすると小さい飼い主は私に声をかけたあと、私の入らない部屋へと行ってしまう。たまに追いかけて柵をカリカリしてみるが、大抵怒られるし出てこない。つまらぬ。

ソファに戻って大きな飼い主と過ごすことにする。「はみがき」と言っておいしいおやつをくれる時もある。でも、そのおやつのときは飼い主が握りしめていて離してくれない。しかたなくそのままガジガジと噛んで味わう。しみじみ。硬いのがだんだん柔らかくなるのが面白い。しばらくすると取り上げられてしまう。どうせなら全部くれればいいのに。

 

大きな飼い主が灯りを消すと寝る時間だ。私は大きな飼い主のマッサージを受けてから(ときどきおかわりを要求してから)自分の部屋に戻り、穴倉の中で丸くなる。

 

明日はごはんに鰹節が載っているといいな。